変わる・変われない2b
2006/10/31 コメントを残す
世界を変えるのか・自分が変わるのか2
~チェがエルネストだった頃~
映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」(2004年)の英語圏でのキャッチフレーズは,今回のテーマ「世界を変えるのか・自分が変わるのか」に密接していますので,ここでも紹介させていただきます。まずは,今でも英語版のオフィシャル・サイトで使われているもの。
Let the world change you… and you can change the world.
意味は大体こんな感じです。世界が自分を変えるがままに……,そすれば,世界を変えることができる。
英語版のキャッチフレーズを,もう一つ。
Before he changed the world the world changed him.
(ゲバラが)世界を変える前に,世界が(彼を)変えた。
1959年1月1日に,カストロ兄弟や同志と共に,チェ・ゲバラは,キューバに革命政権を樹立しましたが,その約3年前,1956年12月12日に,カストロが亡命していたメキシコから,オンボロ船グランマでキューバに上陸し,超人的なゲリラ活動を展開しました。この映画は,それから時を遡ること,約5年(1951年12月~)の旅の記録。世界を変えた男が,その昔,世界(社会の問題)に開眼したというお話です。
医学生だったエルネスト・ゲバラ(当時23歳)と,生化学者アルベルト・グラナード(29歳)が,アルゼンチンからアンデスを越え,チリからペルー,アマゾン(コロンビア)を北上し,カラカス(ベネズエラ)の別れまで,約7か月にわたる12,500キロの南米縦断の旅が,スクリーンに甦ります。
映画のタイトルがダイアリーズと複数形なのは,この2人の青年の日記という形式を取っているからです。2人の視点から語ることで,客観性を持たすことができますし,不器用なまで真面目なゲバラに対して,陽気なアルベルトは善き旅のパートナーだったことがわかります。
また,若くして亡くなったゲバラの果たした役割は,中南米の人々が置かれた不均衡に対して,何かをしなくてはならないと立ち上がったことであり,黙って見過ごすことができなかったゲバラの動機の部分が,この映画に示唆されています。当時の南米の現実(人々の苦悩)を実際に見ることで,エルネスト・ゲバラはチェ・ゲバラに生まれ変わり,内気な青年が,人々の先頭に立つリーダーへと変貌していったわけです。
映画の撮影は,実際に2人の青年が訪れた道をたどるという試みで,齢八十を越えたアルベルト・グラナード氏を,キューバから迎え,アドバイスを受けています。南米出身のウォルター・サレス監督の真摯な取り組みと,2人への敬意が随所に感じられます。
グラナード氏の回顧と再訪が,映画のメーキングとして「トラベリング・ウィズ・ゲバラ」(2004年)としてまとめられていますが,南米が半世紀前と変わっていないというコメントが印象的でした。「モーターサイクル・ダイアリーズ」を理解するうえで,このドキュメンタリーは貴重な資料です。
今日では,キューバ革命からほぼ半世紀を迎えようとする中,今年7月の緊急手術のニュースを始め,カストロの健康の衰退が囁かれ,後継者は誰なのかと詮索されています。東欧圏の崩壊後も,キューバはかたくなに社会主義体制を死守していますが,人々の経済的な不満(国民1人あたりGDP=約15,000円)が募り,生活レベル(経済水準)の向上は必至です。
しかしながら,経済的には低迷しているものの,キューバでは教育と医療は無料で,病院は24時間開業しているそうです。チェ・ゲバラの呼びかけに応じて,アルベルト・グラナードは,革命後のキューバに渡り,キューバの医療の基礎を築いたわけですが,グラナードの取り組みには,この旅の影響があったことだと思います。
貧しいがために治療を受けられなかった人々のために何かしたいというゲバラの遺志が,グラナードに引き継がれることによって,何らかの形で成就したのは感慨深いものです。これこそが,チェ・ゲバラの世界への形見,いや遺産なのかもしれません。