コンペアー&コントラスト32
2005/06/18 4件のコメント
ロード・ムービー第二十七夜。「オートバイの登場するロード・ムービー:
Ⅱ. イージー・ライダー (e)ジョージの行間 その1」
「イージー・ライダー」(1969年)の旅を続けます。ジョージ(ジャック・ニコルソン)の行間を,少し埋めてみましょう。この映画のテーマ(アメリカ,「自由とは」)に触れる会話の中で,ジョージは重要な役割を果たします。
主人公ビリーとワイアットが,ジョージと出会ったのは,小さな町の留置所でした。ニューメキシコ州のラスベガス。いえいえ,ネバダ州の不夜城,娯楽の街ではありません。奇しくも同じ地名ですが。私もこの町を通りかかったことがあります。不夜城どころか,良い子の時間に寝静まるような町でした。
ビリーとワイアットは,地元のパレードに許可書なしで出たと,ブタ箱に入れられます。そこで,普通当たり前だと思っていたこと(権利)が,通じないかもしれないという恐怖心を味わいます。何か「おかしい」けれども,閉鎖的・保守的なところで起こる異様な出来事。因習の残る南部へ向かう二人の主人公の運命の伏線・暗示にもなっています。
ビリー(デニス・ホッパー)は,ガサツで考えなしの言動から,後々身を滅ぼすわけですが,周りの状況を読む機知に欠け,女の子にモテたいけれどモテないタイプ。ワイアット(ピーター・フォンダ)の方は,内省的で思慮深く,いろいろな生き方をポジティブに受け入れようとする姿勢が見られます。ビリーに巻き込まれた形で,ワイアットも身を滅ぼします。
ビリーがブタ箱でブーたれてると,そんなところで,自己主張しても無駄だと諭したのがジョージ。無駄どころか,ヘタに目立って反感を買うのは危ない。土地の状況や,自分の置かれた立場を把握していないビリー。西部時代の無法者ビリー・ザ・キッドから命名されたビリー。まさにキッド(子供)です。ジョージの口利きで,二人は釈放されます。人権を主張して釈放されたのではありません。
ヨッパライで留置されていたジョージは,ACLU(American Civil Liberties Union, アメリカ自由人権協会)の弁護士です。これは皮肉な設定で,田舎町での日常や,自分の置かれた立場(地方の名士の息子)を把握すればするほど,自由でないことを知っています。そんな矛盾を抱えつつ,父には頭が上がらず,母からは甘やかされ,自分の非力さに感付いているジョージは酒でも飲むしかない。アル中という設定です。
1920年に米国憲法で保障されている基本的人権の擁護を目的に設立された市民団体ACLUは,人種差別撤廃,男女平等,表現・信仰の自由,法的手続きの平等などに取り組んできました。第二次世界大戦中に,日系人の強制収容は人権の侵害だと摘発したのもACLUでした。
今年の3月30日に,日系人フレッド・コレマツ氏が86歳で亡くなったというニュースを聞きました。強制収容所行きを拒否したコレマツ氏の裁判に協力したのがACLUでした。半世紀にわたる闘争の末,クリントン大統領よりコレマツ氏へ「大統領自由勲章」が贈られました。
「正義を希求する我が国の歴史の中には,多くの人々の為に闘った燦然と輝く市民の名があります……。誉れ高き先人の名前と共に,フレッド・コレマツという名前が本日刻まれました。」
クリントン大統領は,有名な公民権の例を挙げながらコレマツ氏の勇気を讃えました。昨年の今頃,コレマツ氏のドキュメンタリーを見ました。コレマツ氏は,「9・11以降,イスラム系の人々より感謝され驚いた」と語っていました。
『あなたが闘ってくれたおかげで,アメリカで堂々と生活できます。』
『学校に行けます。』
『仕事ができます。』
『買い物に行けます。』
『ありがとう。』
一方,自由の為に闘うということの大変さがよくわかりました。時間がかかるということと,闘っている間は社会から疎外されるということ。よっぽど強靭な意志がなくては続きません。また,揉み消そうとする反動・プレッシャーに耐えつつ,生き延びなくてはなりません。
コレマツ氏は,「自分のやったことが,少しでも他人の為に役立ったようで嬉しい」と続けました。自由は自分勝手とは違います。一方通行ではありません。他人の権利(自由)を尊重するからこそ,自分の権利(自由)も守られるのです。コレマツ氏の生き方と,「イージー・ライダー」の三人の運命は全く違った方向に向かいます。
クリントン大統領は,コレマツ氏を公民権に寄与した人々の間に位置付けました。「イージー・ライダー」の時代背景には,アメリカにおける公民権運動があります。次回は南部とのかかわりの強い公民権運動を少し,『ジョージの行間 その2』として,お話しする予定です。
今日の写真は、菩提樹にクリーム色の小花が咲いたのでアップしてみました。今頃ヨーロッパでは,菩提樹の洋種リンデンバウムに,馨しい花が咲いていることだと思います。
気軽にコメントしていって下さいね。それでは、またお会いできるのを楽しみしています。