コンペアー&コントラスト51
2005/10/31 2件のコメント
ロード・ムービー第四十一夜。「オートバイの登場するロード・ムービー:
Ⅴ. 「モーターサイクル・ダイアリーズ」(2004年) シンボル性」
それでは,「モーターサイクル・ダイアリーズ」の旅を続けることにしましょう。
「映画のみならず,他のビジュアルな面でも,大変印象深いチェ・ゲバラ。次回は,そのシンボル性などに触れてみる予定です。」と,数回前に書きました。寄り道をしましたが,今回は元グラフィック・デザイナーとして,チェのイメージやシンボル性についてお話しします。
シンボル化するということは,どういうことでしょうか。ロゴのごとく人々に認識され,金太郎飴のごとく均一なイメージ。ロゴをデザインする際に,記憶されやすく,認知されやすい顔のデザインが好んで用いられます。スターバックスなどのロゴを思い出しますが,他にも思い付きますか。
マスコットとなると,人間化(もしくは漫画化)された動植物(犬,猫,パンダ,クマ,カエル,ペンギン等々)や,見慣れたもの(乗り物,食器,道具など)が登場します。絵文字なんていうのも人間的な表情が多いし,極めつけは,ニコちゃんマークでしょう。
チェ・ゲバラの場合をみてみましょう。まずは,有名な写真が存在するということです。キューバの写真家アルベルト・コルダが1960年に撮影した写真は,(少佐の軍位を表す)一つ星のベレーをかぶったもの。そして,簡単に複製することができる画像に変換できること。この二点が実在人物をデザイン化するための決定的な要因です。
インパクトのある素晴らしい写真(ポートレート)が存在する例としては,オードリー・ヘップバーン,マリリン・モンロー,ジェームス・ディーン,ジム・モリソン(ドアーズ),エルビス・プレスリーなどの不朽の画像が思い浮かびます。
コルダの写真から,ジム・フィッツパトリックが,意志の強そうなチェの描画を作成した時点で,20世紀のイコンが完成したと言っても過言ではないでしょう。革命(そしてそのために流した人民の血)を表す赤と,社会主義の象徴である星。伝達能力の高いデザインです。もちろん,その背景にはチェの生き様や,考えに共鳴した人々がいたということが前提にあります。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/5/54/Cheicon.jpg
コルダの写真および,アンディ・ウォーホル版シルクスクリーンは,以下のリンクを参照にしてください。
http://www.art-for-a-change.com/Month/korda.htm
フィッツパトリックのデザインは,白黒(もしくは赤黒)のバランスが絶妙で,簡単に複製することができる印象的な画像です。このようなインパクトのあるロゴやシンボルをデザインする際に,白黒対応(一色刷り)できること,いろいろなサイズに対応できる(スケーラブルである)ことが重要なポイントになります。
つまり,印刷のコストが削減できるということです。高度で難解な印刷技術を必要としなくても,一定のクオリティーを保てるということ。古い白黒コピー機で複製しても,裏庭で自家製のシルクスクリーンでも,原型をとどめることができるアートの存在が前提になります。それが,フィッツパトリックの描画でした。(CGならベクター/ベジェ vs ピクセルなどで例えられるでしょうか。)
ウォーホルのマリリン・モンロー,ジョン・F・ケネディ,毛沢東,レーニン,そしてキャンベル・スープのラベルに電気椅子と共に,チェはポップアートとして,大量生産されるイメージと化したわけです。Tシャツや,ステッカー,ポスターなどと,イデオロギーの表明というよりは,ファッションの一部として使われているのかもしれません。
コルダの写真は,チェの死(1967年)と前後して西側に流出しましたが,その写真が撮影された1960年には,チェ・ゲバラがタイム誌の表紙を飾っています。当時の影響力が窺われる写真です。チェの革命思想は,冷戦下の当時,何かがおかしいと感じていた若者の間でもてはやされました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Ergstimecover1960.jpg
最近でも,ヴィッセル神戸(Jリーグ)の試合などのスポーツ・イベントや,街角でミリタリー調のカモフラージュのパンツに合わせたチェのTシャツなどを見かけます。チェの思想や意図したところから切り離されてファッションとして存在するのか,それとも,意思表明なのかわかりませんが,チェのイメージは,現代にも息づき,生きながらえているようです。
Tシャツのおに~さんは,一体どんな人だったのかと映画を観てくれる人がいても,いいのではないのかなと考えますが,皆さんはどう思われますか。そして,映画を理解するうえで,このブログが少しでもお役に立つことができればと願います。
気軽にコメントしていって下さいね。それでは,またお会いできるのを楽しみしています。