コンペアー&コントラスト30
2005/05/27 6件のコメント
ロード・ムービー第二十五夜。「オートバイの登場するロード・ムービー:
Ⅱ. イージー・ライダー (d)からくり」
「イージー・ライダー」(1969年)の旅を続けます。この映画の感想は多種多様だと、第二十一夜(「リアクション」、5/4ブログ)で触れましたが、主たるも感想のうち「ワケのわからん映画」をテーマに、お話ししてみようと思います。あっそうそう、今夜はゲストに、皮伊太(ぴいた)さんと、出荷巣(でにす)さんを、お招きしました。
まり「本日はお忙しい中、ブログにご来訪ありがとうございました。さっそくですが、何故、『イージー・ライダー』は、わからないと言われるのでしょうねぇ。」
皮伊太「初公開された時、映画界に長いとーちゃんの感想も、『わからん!』でした。」
まり「ふーーーん。意外だなぁ。お父様は、『怒りの葡萄』で、ムショ帰りの喧嘩っ早いタイプを演じていましたよね。社会からのはみ出し者という共通点があると思ったんだけどな。しかも不況や、ダストボールで農地が不毛と化した深刻な社会問題を抱えた時代背景は、ベトナム戦争で希望を見失った時代と重なるし。アメリカの真ん中あたり(オクラホマ)から、カリフォルニアに向かった『怒りの葡萄』も、ロード・ムービーという共通性がある。『何であんな映画が売れるのか』という意見は、一般に蔓延していたようですがね。」
皮伊太「実際のところ、同業者からも、『イージー・ライダーは、わからない』というのが、通説だったようです。」
まり「そんでもって、興行成績がよかったものだから、よけいにわからない!!!」
皮伊太、出荷巣、まり「……ははは。」
まり「低予算で作製されたとはいえ、公開当時国内だけで、予算の100倍近い収益を上げたわけですよね。映画のエンディングはともかく、ビリーとワイアットの老後は安泰ですね。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
まり「でも儲かった……」
皮伊太「日本でも、1970年度キネマ旬報ベストテンで一位の作品でしたから、人気があったのは確かなようですね。日本のファンの皆さま、ありがとうございます。」
まり「1969年のカンヌ映画祭では、出荷巣さんは新人監督作品賞(Prix de la premiere oeuvre)を受賞されたわけでしょ。審査員は、何を見出したのかなぁ。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
まり「アカデミー賞でも、最優秀助演男優賞、最優秀脚本賞を受賞したわけですよね。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
皮伊太「巷では、ジャックをスターにした作品だと言われているそうですよ。」
まり「確かにジャック・ニコルソンは、あの作品で注目されましたよね。その後も、あのキャラクターと、ジャックは、ほぼ同一のように受け取られているようですし。それに加えて、最優秀脚本賞でしょ。審査員は、何を見出したのかなぁ。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
まり「噂によると、当初『イージー・ライダー』のラフカットは、3時間を超えていたそうですね。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
まり「それを、監督が約半分(94分)にカットした時に、ストーリー・ラインを全て省いたと。」
出荷巣「いや、ほとんど覚えていない。」
まり「ストーリー・ラインや説明がないから、話しが見えないものの、行間に意味が潜んでいると聞きました。つまりストーリーが宙に浮かんでいる。そこが、この作品の斬新さなのかもしれませんね。ちなみに、『イージー・ライダー』の英語キャッチ・フレーズは、『アメリカを探しに行ったが、どこにも見つからなかった』(訳)でした。解釈は人それぞれの自由ですが、行間を少し埋めてみると面白いですね。そこにあるけど、見えないストーリー。」
皮伊太「見えざるストーリー。」
まり「どうやら、その辺がこの映画のからくりなのでしょうね。」
皮伊太、出荷巣、まり「見えざるストーリー……」
……な~んて対談があれば、面白いだろうな~と想像に耽るのでした。出荷巣監督は、映画作製中、かなりぶっ飛んでいたとのこと。それでも、ヴィム・ヴェンダーズ監督がこの映画を観て、強く影響を受け、ロード・ムービーを作製し始めたのは有名な話しです。ロード・ムービーとして、「イージー・ライダー」が、必ず挙げられる所以です。
一般にロード・ムービーという形式が明確でないのは、「見えざるストーリー」が意識されているからなのかもしれませんね。ロード上にいる間は、次に何が起こるのかわからない。日常からの離脱は、「見えざるストーリー」という展開と相俟って、何らかの発見を促すといったところでしょうか。例え結果的に何も見つからないにせよ、ロードは変化の触媒・象徴です。
次回は、ジョージ(ジャック・ニコルソン)の行間を少し埋めてみる予定です。
今日の写真は、春菊(菊菜)の花です。冬の鍋物で大活躍の春菊。独特の香りと味がありますね。春には、可憐な黄色の花が咲くのには驚きました。文字通り春の菊。普段は見えざる花を、見てみるのもいいものだと感じます。
気軽にコメントしていって下さいね。それでは、またお会いできるのを楽しみしています。
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註: イージー・ライダー(1969年)データ
監督・脚本・主演(ビリー): デニス・ホッパー
製作・脚本・主演(ワイアット): ピーター・フォンダ
脚本: テリー・サザーン
助演(ジョージ): ジャック・ニコルソン
予算(推定) 34万ドル
興行成績 3千万ドル(1969年、アメリカ国内)、6千万ドル(1972年1月、世界累計)
英語キャッチ・フレーズ(Tagline)
A man went looking for America and couldn’t find it anywhere!