昨日・今日・明日
2006/11/27 コメントを残す
「父親たちの星条旗」と「トゥマロー・ワールド」を観てきました。
星条旗の方は,間もなく上映される「硫黄島からの手紙」と対になっており,是非とも劇場で観ておきたかった映画です。コンセプトのレベルから,一本の作品に両側の視点を詰め込むより,一対の作品として,じっくりそれぞれの立場を語るという企画はお見事。
クリント・イーストウッド監督,ポール・ハギス氏の脚本と,アカデミー受賞作品「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)の最強のチームが手がけています。ドリーム・チームでも,コケることがありますが,これは,相乗的な功を奏したといった感じです。
不条理を得意とするイーストウッド監督と,同じ出来事を複眼的な視点から描くハギス氏のスタイルが生かされていますが,スティーブン・スピルバーグ氏の製作とのことで,凄いメンバーですね。もちろん,「プライベート・ライアン」(1998年)や「バンド・オブ・ブラザース」(2001年)等の経験も充分に生かされています。
第二次世界大戦で,激戦を経たトラウマの傷を癒す暇もなく,茶番に巻き込まれていった3人の青年の物語ですが,演出に積極的に関与した者,参加はするが良心を忘れなかった者,トラウマと良心の軋轢に飲み込まれた者,それぞれの孤独をイーストウッド監督らしい切り口で描き,名もない英雄たちと,メディアの生み出した偶像を対比させていました。
それぞれの立場を理解しようとするポール・ハギス氏の視点と,醜さも傷も全てあるがままに描きながらも,何か心動かされるイーストウッド監督の姿勢。イーストウッド監督は,音楽も担当されているとのことで,残虐な殺戮を素朴な旋律で包み込んでいたのが印象的でした。(以前はもっとシニカルで,突き放した感じがしましたが,ダーティー・ハリーも人の子だったのかと。) 是非とも硫黄島の方も劇場で観たいと思います。
「父親たちの星条旗」が,うやむやになっていた過去の出来事を理解しようとしているのに対して,「トゥマロー・ワールド」の方は,比喩的に“what if”(仮想未来)を投げかけていますが,どちらも,今の生き方を考えるキッカケに出会うことができる作品だと感じました。昨日,明日,そして,残ったのは今日。今日をどう生きるのか。
アルフォンソ・キュアロン監督の「トゥマロー・ワールド」は,近未来(2027年)を舞台にした作品ですが,やけにリアルでした。中東,南米,アフリカ……。War Zone。悪夢の未来編。Things went terribly wrong. アメリカのインナー・シティーにだってありえる状況です。
グレッグ・レイクの透明な声(「クリムゾン・キングの宮殿」)が流れてきたところで,個人的には,映画がボツでも許せると思いましたが,最後迄観てよかったです。全体的に,このアルバム(宮殿)が出た1960年代の匂いがします。マイケル・ケインを始め,登場人物のライフ・スタイルはヒッピー的ですし。
ところで,この映画,クライヴ・オーウェン,マイケル・ケインと,名優の演技も見どころでした。同じような前提をテーマとした「イーオン・フラックス」の視覚化や解釈とは,違ったアプローチがとられているのも興味深いものです。
昨日への理解と明日の可能性から,今日という日が生まれる……