第3回デジタルアート・ギャラリー 雲の影・海の記憶

湿気を含んだ空気に
潮の匂いがかすかに漂う時
吸い寄せられるように
人々が集まった桟橋で
雲の影が海の記憶を
そっと呼び起こした

帆船の姿を水面に映し
空の色が茜色に変わる時
吸い寄せられるように
人々が集まった桟橋で
雲の影が海の記憶を
そっと呼び起こした

第79回アカデミー賞発表

何と言っても,今回のアカデミー賞で注目の的は,マーティン・スコセッシ監督。期待は裏切られず,6度目の正直でした。1980年の「レイジング・ブル」に始まり,1988年の「最後の誘惑」,1990年「グッドフェローズ」がノミネートされましたが,受賞はかないませんでした。それから12年後,2002年の「ギャング・オブ・ニューヨーク」。その後は,2年毎にノミネートと,「アビエーター」(2004年)が続き,遂に今回の「ディパーテッド」で,監督賞のみならず作品賞もゲット!!!Finally! 脚色賞と編集賞を加えて4部門の受賞となりましたね。It’s BAAAAD!

主演男優・女優賞は期待通り,王様(フォレスト・ウィッテカー,「ラストキング・オブ・スコットランド」) と女王様(ヘレン・ミレン,「クィーン」)が君臨。助演女優は,ジェニファー・ハドソン(「ドリームガールズ」)と,まさにアメリカン・ドリーム・カム・トゥルー!!!

助演男優賞の行方は前出の演技に与えられる3賞に比べ,定かではありませんでしたが,「リトル・ミス・サンシャイン」のアラン・アーキン氏が射止めました。アカデミー賞は,1966年と68年にノミネート(共に主演男優賞)されて以来だそうですが,「キャッチ22」(1970年)のユサリアン,「シザーハンズ」(1990年)の父親,「ガタカ」(1997年)の刑事,「愛の神,エロス」(2004年)の精神分析医・職場の同僚など,印象に残る役を演じていました。「リトル・ミス・サンシャイン」は,オリジナル脚本賞も受賞しています。

それから,もう1つ話題になったのは,地球温暖化を扱ったドキュメンタリー「不都合な真実」に登場するアル・ゴア氏。2008年の大統領選に出馬?と,思わせぶりにステージを下りましたが…。もう1つのサプライズは,同作品が,「ドリームガールズ」からノミネートされた3曲を押しのけて,歌曲賞を受賞したことです。

視覚面では,「パンズ・ラビリンス」が,美術賞・撮影賞・メイクアップ賞の3部門で受賞し,ヒスパニック系が健闘しました。近年のアカデミー賞は,いろいろな文化的な背景を持つ人々に門戸が開かれ,これからも,多様な才能を生かした作品が登場してくれることが期待されます。

面白そうな映画,ありましたか?おひいきの作品,受賞しましたか?

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参照:

アカデミー賞公式サイト(英語)
第79回オスカー・ノミネート作品(現地時間2006年2月25日,時差のため日本時間26日発表)

http://oscar.com/oscarnight/winners/index

以下のリストは,公式サイトの記載順です。日本語タイトルが不明なものは,英語の原題を併記しました。

助演男優賞
アラン・アーキン 「リトル・ミス・サンシャイン」

視覚効果賞
「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」

長編アニメ賞
「ハッピー フィート」

短編映画(実写)賞
「ウエスト・バンク・ストーリー」(原題)West Bank Story

短編アニメ賞
「ザ・デニッシュ・ポエット」(原題)The Danish Poet

衣裳デザイン賞
「マリー・アントワネット」

メイクアップ賞
「パンズ・ラビリンス」

助演女優賞
ジェニファー・ハドソン 「ドリームガールズ」

短編ドキュメンタリー賞
「ザ・ブラッド・オブ・インザウ・ディストリクト」(原題)The Blood of Yingzhou District

長編ドキュメンタリー賞
「不都合な真実」

美術賞
「パンズ・ラビリンス」

作曲賞
「バベル」

音響賞
「ドリームガールズ」

歌曲賞
"I Need to Wake Up" 「不都合な真実」

音響効果賞
「硫黄島からの手紙」

外国映画賞
「善き人のためのソナタ」 (ドイツ)

編集賞
「ディパーテッド」

主演男優賞
フォレスト・ウィッテカー 「ラストキング・オブ・スコットランド」

撮影賞
「パンズ・ラビリンス」

主演女優賞
ヘレン・ミレン 「クィーン」

脚色賞
「ディパーテッド」

オリジナル脚本賞
「リトル・ミス・サンシャイン」

監督賞
マーティン・スコセッシ 「ディパーテッド」

作品賞
「ディパーテッド」

 

ドラマリーディングからロートレック展まで

このところブログの更新が滞っていましたので,今夜は近況報告です。

まずは,先週末から。今年は何か新しいことにチャレンジしようということで,ドラマリーディングに参加してきました。これは,思った以上に面白く,芝居をつくるプロセスを体験できたこと,演劇を内側から観察することができたこと,演じるということの意味を考えることができてよかったと思います。

まずは,ドラマリーディングの定義から。日本では,劇団が演劇をつくりますが,欧米では,劇場が芝居をつくるので,上演作品も選びます。その選択過程で,まずは学芸員さんが絞り込み,選ばれた戯曲(脚本)を役者さんが試しに読んでみるのがドラマリーディングだそうです。日本では有料で上演されるドラマリーディングが主流とのこと。前者は,台本の読み合わせリーディング・セッションのような感じで,後者は,朗読会と演劇のほぼ中間のような印象を受けました。

私のイメージとしては,次を聞くのが待ち遠しくてたまらないラジオ劇場や朗読,子ども時代なら紙芝居,スポーツなら野球や相撲の実況中継のようなものを,漠然と思い浮かべていました。ラジオ劇場や朗読は,聞く人に直接話しかけているような親密さや,言葉を大切にしているところが好きです。

レーガン大統領とウォルター・クロンカイト氏(「アメリカの良心」と呼ばれたジャーナリスト)が,まだ駆け出しの頃,ラジオ局に勤務し,野球中継をした体験談を思い出しました。当時は技術的に実況放送が不可能で,電送で送られてきた試合の進歩状況のメモを読み上げる仕事が回ってきたそうです。そのまま読むのでは面白くないので,実況中継のように読めと指示され,まるで目の前で試合が繰り広げられているように毎回工夫して読んだと語っていました。今ではそのようなことはしませんが,おかげで,人に言葉を伝えるいい勉強になったと懐かしそうに話しているのが印象的でした。

ラジオや朗読は,100%耳に頼ることになりますが,聞き手の想像力を,どれだけインスパイアすることができるのか,感動を共有することができるのかという共通の使命があります。送り手がインフォメーションを伝え,聞き手の想像力で完結する。聞き手との共同作業です。紙芝居には視覚的なヒントがあり,本の挿絵のように想像力のスタートラインを複数の人々が共有しています。ドラマリーディングも同じく,聞いてわかることが第一ですが,視覚的なヒント(演技・演出)が簡潔に登場します。

今回の演出家の方は,最初から明確なヴィジョンがあり,手元にある(限られた)材料を最大限に生かしてくれたので,無駄なくまとまっていきました。演技がミニマリズム的な分だけ,聞く人の想像力を紡いでいくことができます。さすがはプロ,うまく料理してくれたと思います。

個人的に面白かったのは,最初の読み合わせで,いろいろなパートを違う人が読むのですが,読み方だけでも,全く違った解釈ができるということを,改めて実感できたことです。これは,オーディションと配役の役割を果たしていました。また,違った人物,人格に没頭するのは思った以上に楽しく,お芝居に熱中する気持ちが少しわかったような気がします。

この面白さを映画で例えると,ジャームッシュ監督の「コーヒー&シガレッツ」(2003年)を思い出します。コーヒーとタバコを共通項に,寸劇をオムニバス形式でまとめた映画ですが,ミニマムな設定といい,何組かが同じシチュエーション(脚本)で演じているところといい,なかなか面白い試みでした。

仕事の方では,春節(中国でお祝いする旧正月,今年は2月18日)に来日していたお客さんを,梅が見頃の栗林公園に案内しました。英語に中国語と日本語を混じえてのコミュニケーションです。その昔,中国の国花だったという梅花(メイフォア)の中国語の響きが優雅で,「メイフォア,メイフォア」と,何度も繰り返していました。旧暦(太陰暦)のお正月に梅の開花が重なるのは素敵です。A Happy Lunar New Year!

それから,ウィークデーには,美術館でパフォーマンス・タイプのインスタレーション「DON」があるというので,行って来ました。アメリカでは,インスタレーションという形態の芸術空間・アート体験を手がけている友人や知人がいたので,よく見る機会がありましたが,コンセプトや着眼点が大変斬新です。面白い作品をこれからも沢山見ていきたいと思います。

そして,本日は,TV番組の収録の打ち合わせも兼ねて,美術館に再び行ってきました。いつも番組に出演してくれているジェシカさんと一緒です。英語で俳句を作ったり,詩や散文を書く感性豊かな彼女と,美術館の後には,一緒にお食事をしながら,アーティストの生き方について話しました。アートに関して波長の合う彼女と話すのは楽しく,いつもついつい時間を忘れてしまいます。

第45回写真展 水仙の島再訪

水仙の島を再訪しました。水仙郷づくりに取り組む男木(おぎ)島。数年後に完成するとのことで,今回は水仙郷の経過報告・Progress Report 2007。そして,瀬戸内紀行です。

前回の訪問は,水仙の見学には早過ぎると言われましたが,下見として行ってくることにしました。それより一足早く訪れた報道関係の人々のレポートでは,今シーズンは雨が少なく,水仙の開花が遅れているため,一分咲きとのこと。船の便の都合等で正味3時間の訪問でしたが,山道に芳香を放つ梅の花という思わぬ収穫がありました。水仙を見に行って,梅を見つけるのもオツなものです。

水仙の花は,島の北部に位置する灯台のあたりから,約1kmの山道の両脇に植えられていて,何年後には水仙郷となる島の中央部に到着します。山の北側であることと,なだらかな丘陵に日差しを遮られ,開花が遅い部分もありますが,光を受けて提燈が点るように水仙の花が山影から覗き始めます。うつむいた花。首をかしげた花。一斉に光の注ぐ方向を見つめています。

仕事の都合で訪問できる日や,天候等の条件等が揃うことは稀ですが,もう一度,今年の水仙を見に行くことができました。水仙郷ができていく様子を,長い目で見守っていくことにしましょう。

※今回の写真展は,「第43回写真展 東風(こち)吹かば」(2/7)の続編です。

第44回写真展 匂おこせよ梅の花

ヤバイ系が見ごろ?

とのことで,栗林公園(香川県)を訪れました。栗林公園の梅は,野梅(やばい)系と紅梅系,そして,開花期が少し遅い豊後系の3種。ヤバイ系とコウバイ系がピークです。

それぞれの典型的な花の色は,野梅系が白,紅梅は紅,豊後系が淡紅色だそうで,野梅系と紅梅系の枝は細く,豊後系は枝が大きめです。野梅系は梅の原種に近く,紅梅の木の部分の髄が紅く,豊後系はウメとアンズの中間的な性質を持つそうです。栗林公園には,梅の標準木もありますが,平年の開花日は1月23日頃。枝ぶりの見事な白梅です。

外国からのお客さんを案内したり,通訳のボランティアをしたり,栗林公園を訪れることは結構ありますが,写真を撮りに行く機会は少なく,そのうち実現させたいと思っていました。日本庭園に不慣れな外国の方でも,手入れの行き届いた木々の美しさに感嘆します。梅の木も枝ぶりが美しく,芸術作品のようです。

一歩一景と称される回遊式の日本庭園は変化に富み,水と光が生みだす万華鏡の世界のようでした。行けども行けども景色が変わらないアメリカの雄大さとは,全く対照的な世界です。カズオ・イシグロ氏の「日の名残り」で,イギリスの美しさを,大陸型の美しさと対比する部分がありましたが,日本独特の美しさが凝縮された日本庭園の品格も捨てがたいものです。

海外でも盆栽ブームですが,ボンサイとバンザイの発音がごっちゃになって,アメリカでは,バンザイツリー(Banzai Tree)と発音する人が結構います。確かに,木を見ていると,人に見えてくることがありますね。擬人化できそうな枝ぶりが結構ありますし,「ロード・オブ・ザ・リング」には,木の人Treebeardが登場しました。

盆栽の地,栗林公園の北口近くに,バンザイツリーを見つけました。胴体(torso)は,ターザン?山男?マラソン選手?それとも,サッカーの「ゴール!」かな。まるでバンザイしているようだと,思わずカメラを向けましたw。番外編Torso (ユーモア編)として,別のアルバムを追加しておきました。たまには,こんなのもいいかな。

なお,タイトルは菅原道真の一首から。

東風吹かば 匂おこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ

前回の写真展「東風(こち)吹かば」に続き,梅便りです。前回は山の梅,今回は里の梅。梅の香が皆さんにも届きますよう! Happy Valentine’s Day!  

映画百選の続き

昨年のブログ1周年記念に,好きな映画を100本選んでみました(映画百選)。あれから1年。今夜はその続きを少し……

この1年間,どのような映画に興味があるのか,そして,自分にとって意味があるのか,無意識のうちにも考える習慣ができました。これは,大変よかったと思います。今まで混沌・漠然としていた映画とのかかわりを,言葉にするということは,それなりに意義があり,取捨選択の作業は自分探しと重なるものがあります。延いては,己を知るということ。自分自身の好みを把握するということは,映画ファンとの会話やコミュニケーションの際にも大いに役立ちました。

まずは,昨年のリストに是非追加したい映画。

クシシュトフ・キェシロフスキ監督の作品から。もともとはTV番組だったので,昨年のリストに入れなかった「デカローグ」(1988年),そして,初期の「アマチュア」(1979年)も捨てがたく,じっくり決めようと思います。

それから,チェン・カイコー監督の「さらば,わが愛/覇王別姫」(1993年)。

どちらも,この1年の間に新作(キェシロフスキ原案「美しき運命の傷痕 」とカイコー監督の「PROMISE」)を観て,そう言えば,いい映画があったと思い出しました。

映画百選を選ぶには,多分,好きな監督さん,プラス好きな脚本や演技を見ることができる映画を選べば,自分なりに納得できるかもしれないと考えます。これならできそうです。

参照:
昨年の映画百選は,「映画百選チャレンジ 第34夜」(2006年1月15日付ブログ)に掲載しました。今見てみると,2か月かけて作ったリストですが,未熟で中途半端な印象を受けます。お恥ずかしいものの,好きな映画について考えるキッカケになったので,チャレンジしたこと自体に意味があったと思います。

第43回写真展 東風(こち)吹かば

海・水仙・梅・灯台・夕陽。今回は,瀬戸内の島紀行です。仕事で2度ほど訪れた男木(おぎ)島を再訪しました。高松(香川県)からフェリーで約40分。途中,鬼が島として知られる女木(めぎ)島に碇泊後,男木島に向かいます。フェリーのお兄さんが,女木島で降りるのではないのかと,わざわざ確認に来てくれました。行きの切符は降りる時に渡します。海の色が深みを増し,のどかで,ゆったりとした時間が流れ始めました。

旅の目的は水仙の花。何年かかけて,1100万本の水仙を育てるそうです。今のところ,約20万個の球根を植えたそうです。どんよりとした一日で,海と空の境が曖昧でしたが,男木港に近付くと,水が澄み,紺碧の海が広がります。島の周囲約5キロ。人口約240人。急な坂道を歩き始めると,水仙はあの辺で咲いているとか,島の人々が親切に教えてくれました。

山道を歩くと潮騒が聞こえ,眼下には水晶色の海が広がり,かすかに潮の香りが漂ってきました。ふと見上げると,山一面が白く染まり,近付くと,甘酸っぱい梅の香が鼻をくすぐります。私だけではなく,野鳥も沢山来ていました。梅も見頃です。

東風(こち)吹かば
匂(におい)おこせよ 梅の花
主なしとて 春な忘れそ

菅原道真(845-903)の一首(拾遺和歌集)で,大宰府に左遷された時に,京都に残していく梅を惜しんで詠んだ歌だそうですが,讃岐も通ったという記録が残っています。主人がいなくなっても,決して春を忘れることのない梅。誰も見ていなくても,見事な花を咲かせ,甘い梅の香が鳥たちを集めていました。

100年以上,瀬戸内海を守ってきたという男木島の灯台(明治28年築造,御影石)が見え始めました。映画「喜びも悲しみも幾年月」に登場する灯台の1つです。灯台の周辺で,海辺を散策し,寄せる波を見て休憩。灯台のあたりにも水仙が満開でした。遠くに島影が見え,フェリーや貨物船が行きかいます。ターコイズ・ブルーの漁船が見えたので,一緒に歩調を合わせて港に戻ることにしました。

太陽の光を受けて水面が輝き,温かい色味を帯びてきました。海が夕陽に染まる頃,海苔の養殖場のあたりにオレンジの帯ができ,日が沈み始めます。赤と青のグラデーション。その日最後のフェリーが港に入りました。女木島の山並みに日が入り,岬の白い灯台に灯が点り,航跡の波頭が夜の闇に包まれていく……

また来年も梅と水仙を見に,東風が吹く頃に島を訪ねてみようと思います。

1月の映画から

この1か月位の間に,日本で公開中もしくはDVDがリリースされた映画のメモです。忘れない間に書いておきますね。

1 「ディパーテッド」
マーティン・スコセッシ監督の本領大発揮!!!という訳で,悪い人のカタログのような映画ですが,上手い映画としか言いようがありません。アカデミー賞作品賞,監督賞,脚色賞,編集賞にノミネートされています。もちろん,アジアの脚本「インファナル・アフェア」をどのように脚色したのか,注目ですよね。

俳優陣のソツのなさも凄くて,演技面でのアカデミー賞ノミネートは助演男優賞だけでしたが,ベテラン俳優の競演が見どころの1つです。それにしても,法のどちら側に立つにせよ,悪さにもいろいろありますねぇ。rogues’ galleryさながらです。

ノミネートされているマーク・ウォールバーグは,自分なりの正義があるにせよ,とっても嫌な先輩を演じきっています。彼の主演した“Fear”(日本語タイトル「悪魔の恋人」1996年)という映画がありましたが,既に悪役の素質アリでした。“Fear”は,少し「太陽がいっぱい」(1990年)やリメイクの「リプリー」(1999年)的な展開で,裏と表のある悪さだったのですが,「ディパーテッド」では表の好感度もゼロ。感じ悪い。態度も悪い。あまりにも憎らしいので,こりゃ何かどんでん返しでもないと,救いようがないと思ったほどです。期待しないで観てください。マーク様,「プラダを着た悪魔」のメリル様共々,どうか職場を和やかにする努力をw!!!

思えば,2004年のアカデミー賞では,イーストウッド監督の「ミスティック・リバー」が話題になりましたが,「ディパーテッド」も,同じボストンを舞台に,近所で育った青年たちが主人公です。法のどちら側にも存在する灰色の部分。苦悩する者,葛藤を無視して自己利益に専心する者。2005年のアカデミー賞では,マーティン・スコセッシ監督(「アビエーター」) vs. クリント・イーストウッド監督(「ミリオンダラー・ベイビー」)でしたが,今年は遂にスコセッシ監督が受賞? Well, it’s about time!!!

2 「鉄コン筋クリート」
美術館の学芸員さんのおススメで行ってきました。背景,キャラクター,配色などなど,全てvisual feastでした。よかったです!!!全体的に,澄んだターコイズ・ブルーが印象的でした。だからと言って,ケバさはなく,茶系統で繋ぎ止め,バランスよくまとまっています。石油コンビナートに薬局のカエル…。キッチュなんだけれど懐かしく,昔を彷彿するんだけれど新しい。それから,日・米(マイケル・アリアス監督)の制作チーム!これぞ,チームワークの結晶です。こんなことができるなんて,本当に嬉しくなりますね!!!

3 「幸せのちから」
ウィル・スミス大熱演は本当です。個人的には,脚本のスティーヴン・コンラッド,注目しています。報われるかどうかわからない不確かなことを,続けていく勇気を与えてくれる映画だと思います。「ディパーテッド」より映画館が混雑していて驚きましたが,このような映画が求められているということは頷けます。以前TVで,本人(実話)が回想する番組を見ましたが,落ち着いた温和な人でした。

「ディパーテッド」は,レオ様(の立場)が気の毒でしたが,どうしようもないのに対して,「幸せのちから」は,主人公と一緒にハラハラドキドキして,応援のしがいがありました。何と言っても,主人公が走り回ります。観ているだけで息切れします。(考えようによっては,「ディパーテッド」は,あるがままに悪い人を描いているため,感情移入できる人がいないのに,あれだけ説得力があるのはもの凄い!)

どんな窮地にあっても,どんな困難に遭っても,息子に辛くあたったり,投げやりにならないところがよかったと思います。ホームレスになり,教会の宿泊施設を利用するため,子どものおもちゃ(キャプテンアメリカ)を拾ってやる余裕もなかったところでは,満場の劇場が反応しました。泣きじゃくる子どもがかわいそうで,何とかしてあげたい気持ちと,おもちゃを拾うと,その夜泊まる所がなくなってしまう父親のジレンマ。不思議なもので,息子も父親が精一杯生きていることを理解していました。それが,生きていくちからなのだと。

4 「トランスアメリカ」
噂どおり,フェリシティ・ハフマンの演技力は素晴らしい。女性が男性を演じた例では,「危険な年」でアカデミー賞助演女優賞受賞したリンダ・ハント(彼女の話す声がいい)を思い出しますが,男性から女性に変わる過渡期を演じる点で,こちらは,男性,女性,どちらが演じても難しい役です。ハフマンの演技は機微に触れるもので,静かなる説得力がありました。

「プリシラ」(1994年)のように,主人公が男性だった頃にできた息子が登場しますが,奇抜な女装と笑いで面白おかしくパッケージされていた頃から,映画における性同一性障害が,随分真面目に扱われるようになったものです。「ボーイズ・ドント・クライ」(1999年)あたりからの傾向で,ヒラリー・スワンクがアカデミー賞主演女優賞受賞を受賞しましたっけ。

「トランスアメリカ」も,「プリシラ」も,ロードムービーで,それぞれ,アメリカとオーストラリアを横断する間に,家族とのかかわりを見直し,自分を見つめる機会が訪れます。普通の人より,生きることが難しい。だからこそ,映画の題材として取り上げられてきたのでしょう。困難な道を選んだ人の生き方に,何らかの意味を見出すことができれば,きっと観る価値があることだと思います。

5 「X-MEN:ファイナル ディシジョン」
アメコミの実写で,しかも第三作。いえいえ,決して盛り下がっておりません!!!よかったです。豪華な俳優陣の演技力に支えられ,丁寧に作られた映画です。大いに楽しめました。

6 「マイアミ・バイス」
TVシリーズのグラマラスなイメージとは違ったアプローチですので,TV番組ファンの方は肩透かしを喰らうかもしれません。大金の動くバイス・スクワッド(麻薬特捜班)なんだから,派手なライフスタイルも仕事のうちだったTV版とは大違い。どちらかと言うと,「トラフィック」(2000年)に近く,かなり控え目,Low Keyです。ファッショナブルな相棒と,遊び人風のドンちゃん(ドン・ジョンソン)のアタリ役でしたが,映画版は(女性への想いも)一途なバッチいタイプ。どちらも,マイケル・マンが手がけていますが,別ものだと考えた方がよいのかもしれません。

自家用ジェットやハイスピードボートの映像が素晴らしかったです。マーティン・スコセッシ監督の「アビエーター」で,ハワード・ヒューズが,飛行機の撮影は雲がいると大騒ぎしたのを思い出しました。見事な積乱雲や南米の滝が画面に捉えられています。

7 「プルートで朝食を」
この映画も,性同一性障害を扱った映画ですが,アイルランドとイギリスの関係に絡めた原作(パトリック・マッケーブ著)は,1998年のブッカー賞にノミネートされています。覗き小屋の告白シーンとか,父と息子,母探し等,「パリ,テキサス」(1984年)と重なる部分もありましたが,舞台がロンドンということで。流れている音楽が違いますね。

主人公を演じるキリアン・マーフィーは,ちょっと悲しげで,愛おしい主人公を熱演していて,「バットマン ビギンズ」(2005年)の悪役から,全く想像がつきませんでした。「真珠の耳飾の少女」(2003年)では,スカーレット・ヨハンソンの彼氏役(肉屋のお兄さん)でしたが,か弱さとか美しさで,決して引けをとっておりません!

8 「レディ・イン・ザ・ウォーター」
M・ナイト・シャマラン監督,いつも注目していますが,次作に期待しましょう。ハイ

9 「M:i-3」 (ミッション:インポッシブル3 )
1本目はOKどころか楽しみました。
2本目は,とってもself-serving。
もうこれ以上言う必要はないでしょう。

Rock, Paper, Scissors

今日は節分でした。風が強く,寒い1日でした。2週間前のことです。友人を誘って,専門学校が開催したビューティショーに行ってきました。昨年,フランスからの研修生がショーに参加し,応援のために行ったのがキッカケでした。全く期待していなかったのですが,完成度の高い作品,若さの可能性,一生懸命やっている姿に感動しました。

学生さんたちがデザインした独自のファッション,ヘアー,メイク,ネイルをショー形式で披露しますが,演出やパフォーマンスも考慮されます。勝ち抜きで,4県4校から,既に厳選された20チームがグランプリを目指して競いました。舞台のコスチューム的なもの,演劇的要素の強いものが多く,流行やトレンドを敏感にキャッチしたものから,独自の世界を築いたものまで,それぞれの個性が光ります。また,1人ではできないことも,1つの目標を目指すチームワークの強さが伝わってきました。

一緒に行ったのは,ブログを訪れてくれるTAKAMIさんと小学1年生になる御子息,そして,アメリカから来日しているジェシカさん。楽しい一時を過ごしました。ジェシカさんとは,TV番組収録の打ち合わせも兼ねて,海の見えるレストランでランチして,会場に向かいました。彼女とは,よく仕事で会っているのですが,仕事以外では会わないと,忘年会の時に話しが出て,ちょっと反省。これから仕事以外でも会おうと話しました。

ビューティショーの後は,4人でお食事に行き,会話を楽しみ大いに盛り上がりました。異文化間コミュニケーション実践編です。いろいろな質問やコメントが飛び出して,あっという間に時間が過ぎました。特に面白かったのは,世界のじゃんけん。小学生君,偉いぞ!!!彼は,アメリカのじゃんけん/Roshambo (Rock, Paper, Scissors)の確認後,インドネシアのじゃんけんを教えてくれました。親指が象,人差し指が人,小指がアリ。この順番(象が人,人がアリ)で勝つのですが,アリは象に勝つのです。何と言いますか,哲学的な世界ですよね。

あと,ジェシカさんへのコメントに,この機会に方言をおぼえるといいというのがありました。ここで,ちょっとタイムアウト!実はこれ,来日している外国の方が,よく耳にするコメントなのですよ。日本語を教えている先生方とも,よく話します。音から外国語を習得する時,方言を話すことは全く問題なく,まわりの人がしゃべっていると,自然と身に付きます。特に初心者は,方言と標準語の区別が付かないと言った方がいいのかもしれません。タメ口で話す外国人というのも,大抵の場合,環境の産物です。日本人が外国で生活する場合も同じです。

カメラと私 テーク2

がんばれミノルタさんから丁寧なコメントをいただきましたので,そのフィードバックを兼ねて,「カメラと私」(1/30付けブログ)でとばした部分を埋めておこうと思います。

最近のことと子どもの頃のカメラ体験を書きましたが,真ん中が抜けていて,サンドイッチのパンはあるけど,中身がないような感じでした。さて,肝心の「真ん中」なのですが,仕事を通してカメラの可能性と多様性を知ったということ,写真を撮ることの楽しさを教えてくれた人々(感謝)等,何に影響を受けているのか,お話しておきましょう。

以前は,超一流のカメラマンと組んでよく仕事をしました。仕事のおかげです。クライアントやプロジェクトによって,違う分野のカメラマンを起用しました。食べ物の撮影を専門とするカメラマンから,ファッション関係,スポーツ,動物や子ども,車や乗り物,ビルや工場,製品・部品,ハイテク分野や精密機械を専門とするプロのカメラマン。ロケや現場での撮影もあれば,スタジオでレイアウトどおりに設定して撮影することもあります。

美しいものを美しく見せるのは当たり前ですが,この人たちの写真は,一味違います。どんな醜いものからでも,存在美を引き出す魔術師。暗闇に浮かぶ石油コンビナートの無数の光が星空のように輝き,車が何でこんなにセクシーなのかと溜息が出たり,温かい湯気のたつコーヒーの馨りが漂ってきそうであったり。平凡なものを非凡に見せる才能と技量に,素直に感激しました。

また,与えられた課題に,最高の答えを出すというプロの厳しさも半端ではありません。1枚の写真を撮るために気が遠くなるほど時間をかけてセットアップしたり,物凄い準備をしてもシャッターチャンスは1度きりであったり,まさにProblem Solving(問題解決)の積み重ねです。カメラに関する技術的な知識に裏打ちされた直感的なセンスと,決して諦めない根気強さに尊敬の念を深めました。

航空写真のように広域撮影から,宝石のように小さな被写体まで,専門分野によって機材も変わってきます。カメラマンと親しくなると,決まって金庫にしまっている大切なレンズを見せてくれました。この家宝のレンズは,高価なだけではなく,写真の命です。もう1つの秘密は,人間の目とカメラの目の違いを理解し,誤差を補正した結果を読み,カメラのように世界を見ることができるということです。

さて,カメラマンとのかかわりですが,この人達のレベルに到達するのは,世界の最高峰に登るようなもので,適性のみならず,入念な準備(トレーニング),地道な積み重ね,気力と並々ならぬ集中力が必要です。加えて,いろいろな要因が複雑に絡み合い,頂に到達できるのは,ほんの一握り。それでも,山に登る。山があるから。そして,山が好きだから。写真を撮るのもそんな感じだと思います。

プロのカメラマンと仕事をすると,自分の未熟さを実感し,謙虚な気持ちになります。そこで,写真は専門家に任せておけばいいと思うかもしれませんが,最高峰でなくても,近所の山でも眺めはいいし,私なりに撮り続けていこうと思いました。やっぱり写真が好きなのだと実感します。猫に小判状態だったのですが,最高の先生方の仕事ぶりを見ていたわけですし,今思えば,贅沢な話です。

それから,何度か展覧会を手がけた関係で,芸術作品のための写真を撮るアーティストたちとも話す機会がありました。キレイで洗練された商業写真とは全く違う世界です。伝わってくるものは様々ですが,物議を醸し出すような題材であったり,内面をえぐるようなダークで痛々しくて涙が出るような作品であったり,繊細で壊れそうな世界であったり,気を付けてないと,不意打ちに遭います。醜さの中の美しさ,激しさの中の静寂,限界へのチャレンジ,試行錯誤,自己表現の可能性に圧倒されました。

展覧会の主宰者の1人は,激戦地に派遣された元報道カメラマンだったのですが,あまり,その時代のことは話してくれませんでした。でも,彼女の仕事ぶりを見ていると,柔和な笑顔の裏に,ただならぬ決断力と,いかなる時にも動じず,シャッターを切り続ける気迫が,見え隠れしていました。この分野は,瞬発力と即断力が決め手なので,言葉にするより,写真に語ってもらう方がよいのかもしれません。

彼女がかかわっていたもう1つのプロジェクトLTP (Literacy through Photography)は,面白いことに,写真を通して子どもたちの読み書き能力の育成をはかるというプログラムでした。子どもたちにカメラを与え,自分にとって何らかの意味がある写真を撮り,それに言葉を付けてもらいます。貧困な地域や途上国を訪れることもあり,社会的に意義があるのみならず,自分を表現することができなかった子どもが,カメラを持つと堰を切ったように饒舌になるのは感動的でした。

他には,著名は自然誌のカメラマンにも会いましたが,デジタル黎明期前には,地の果てで任務を果たすと,未現像のフィルムの山を本社に送り,自分の写真は雑誌に印刷されるまで見たことがないというのが印象的でした。世界を股に,とにかく撮りまくる人たちです。現像された写真を見るのも楽しみのうちだと思っていた私にとって驚きでしたが,大切なフィルムを手放すことのできる潔のよさはカッコいい!

最後になりましたが,写真の専門家でないけれど,画家,彫刻家,デザイナー等,参照のために写真を撮る人々に大きな影響を受けています。芸術家の目。感性。センス。惜しげもなく美の扉を開き,どのように彼らが世界を見ているのか教えてくれました。「ほら,見てごらん」と。覗いたファインダーに,今迄見えなかったものが見えた時,感動に心が震えていました。その瞬間,カメラとの新たな旅が始まったのです。ヒューストン,メモリアル・パーク,18歳の私。

ブログ2周年記念(8)「カメラと私 テーク2」