この1年の映画を振り返って第6夜

"Houston, we’ve had a problem here.”

「ヒューストン,問題が生じました。」アポロ13号は,月面着陸が目的でしたが,予期せぬ爆発事故が起き,宇宙管制センター(ヒューストン)へ発したジム・ラヴェル船長の言葉でした。実話に基づいた映画「アポロ13」(1995年)にも登場する有名な言葉です。

風疹に感染した可能性があるため,アポロ13号に当初予定されていた操縦士(ケン・マッティングリー)が,打ち上げ直前に下ろされています。長年の夢を諦めなくてはならならず,失意のどん底のマッティングリーが,アポロ13号の奇跡の生還に大いに寄与しているわけですが,地球に生還できるかどうかも危うい事態に,一瞬にして陥った乗組員と,地上の関係者が力を合わせて,生死を分かつ問題を乗り越えていくところが,興味深いところです。映画は歴史的観点からも,人間の強さと底力を再認識させてくれることからも,よくできていたと思います。

予期せぬ事態は起きるものです。少し近況を。このところ緊急の仕事が入り,余裕がない状態が続いていました。統計の集計,数値の確認と,通常,数週間ないし何ヶ月もかかる膨大な量のデータを大至急処理せねばならず,全ての集中力を使い切りました。一緒に仕事をしていた人が,これほど集中したことは無いと言っていたほどです。フラフラになりましたが,達成感はありました

フラフラになった状態で,今度は,海外から赴任して来る人の住居の準備に取り掛かったわけですが,たちまち取り壊しになるとのことで,新しい住居を探さなくてはなりません。前任者の片付け,掃除と引っ越しで,連日,暑さの中,汗とホコリまみれになり,特に,アレルギー・喘息体質の私にとって,肉体的に厳しいものがあります。いざ引っ越してみると,使えないものが出てきたり,日本語が読めない人には無理でしょうといったことが出てきたり,毎日,新たなチャレンジの続出です。

そして,昨日,一緒に住居の準備をしていた人が緊急入院したと連絡がありました。木曜日に調子が悪くなり,連日の暑さとホコリまみれで疲れが出たのかと思っていました。金曜日に病院に行って点滴を受けていたのですが,なんと,病名は水痘(水疱瘡)だそうです。かわいそう。先日,子どもがなったと聞いていたのですが,まさか,彼女に免疫がなかったとは。

月曜から,上司が一週間出張します。そして,一緒に仕事をしていた彼女は,(伝染病なので)仕事に来ることができなくなります。三人でなんとかこなせるだろうかと思っていた仕事を,一人でどうしましょうか。工事の立会い等,住居の準備を終えて,今週の来日時には,お迎えに行かなくてはなりません。急ぎの翻訳や日々の業務も溜まっています。夏休みの宿題のごとく,日々の業務も,このまま放っておけば,緊急事態になりかねません。考えれば考えるほど,パニックになりそうで,まさに,"Houston, we’ve had a problem here”です。

「アポロ13」では,不幸な事情が重なったものの,どのようにその危機を乗り越えたかが見どころでしたが,パニックもの(危機一髪)は,冒険ものから,スリラー,ミステリーと,映画の題材としてよく採り上げられています。クラシック路線ではヒッチコック監督,そして,近年では,映像的な表現力を駆使したアクションものとの融合で,テーマパークさながらのスリルを味わうことができます。

さて,本題。この1年の映画を振り返ってみましょう。よくできたパニックものでは,「フライトプラン」がありました。あくまでも子どもを守る母親役のジョディ・フォスター主演ということで,「パニック・ルーム」(2002年)との共通点と違い等を見比べてみるのも面白いと思います。

密室で起きた事件,そして,どのようにパニック状態を克服しつつ,生き延びるか。アメリカを舞台にした「パニック・ルーム」と,ドイツ人監督の手がけた「フライトプラン」の視覚的な違いも面白いのですが,この手の映画は,ネタが勝負なので,まずは観ていただきたく思います。

知的で強い母親を演じるジョディ・フォスターに対して,子どもを守るといった点では相通じるものがありますが,違ったタイプの母親をジェニファー・コネリーが演じている「ダーク・ウォーター」がありました。ウォルター・サレス監督の英語版での本格的なデビューで,日本の原作(「仄暗い水の底から」)を採用したというのは,なかなか興味深いところです。

サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」を,昨年MSNのブログ(ロード・ムービー)で採り上げましたが,仕事で大掃除をしながら,チェ・ゲバラの喘息の描写を思い出しました。ゲリラ活動に没頭していくうえで,医学の心得があるにしても,強靭な精神力があったにせよ,喘息の発作を,どのようにマネージすることができたのでしょうか。

第26回写真展 水の舞踏

厳しい残暑が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。噴水の写真で,少しでも涼んでくださいな。

さて,近況ですが,ダンスの振り付けを少しやってみました。なかなか面白い!その昔,振付けた時は,カウントで踊りましたが,今回は,カウントで踊らず,呼吸を合わせながら違った踊りを重ねていきます。決められたパターンの中に即興性や偶然性を生かしながら流動していくので,かなりの立体感が出ます。キネティックアートとの共通性を見つけて,ちょっと感激です。

音のないダンス,リズムのないダンス,いろいろ試してみました。一糸乱れず踊る群舞にはない動きの美しさの発見は,大いに発想の転換になりました。Let’s do it again!

ドキュメンタリー考察 第3夜: サーフィン

「ライディング・ジャイアンツ」(2004年)

ビッグウェイブ(大波)に挑戦するサーファー(ビッグウェイバー)たちのインタビューを交え,サーフィンの歴史を紐解くドキュメンタリー映画です。スタイル的には,“Liquid Stage: The Lure of Surfing” (1995年,PBSドキュメンタリー番組)の流れを汲むものとも考えられます。

第二次世界大戦を前後して,カリフォルニアを震源地に,オアフ(ハワイ)のノースショアや島西のマカハ等で,ビッグウェイブに挑むようになった経緯が,当事者の回顧録として綴られています。北米サーフィン史を知るうえで,貴重な記録だと思います。20人以上の体験談を聞くことができますが,特に,グレッグ・ノール,ジェフ・クラーク,そして,レイアード・ハミルトンの功績に焦点が当てられています。

ビッグウェイブ・サーフィンに関して現役かつ第一人者であるレイアード・ハミルトンは,ラルフ・ローレンのモデルとしても活躍し,007(「ダイ・アナザー・デイ,2002年」)等の映画では,サーフィンのスタントを担当していました。ビジネスのセンスにも恵まれ,ビッグウェイバー専用トウイン(牽引)スタイルのイノベーション,そして全体的に,スポーツを広めることに大きく寄与していると言えると思います。

ステイシー・ペラルタ監督自身,スケボー出身であることからも,サーファーたちと共通点や共感できるところが,ドキュメンタリーを作るうえで,大いに役に立ったと思います。前作「DOGTOWN & Z-BOYS」(2001年)は,スケボーの歴史と,LAで発祥したZ-BOYSのストリート・スタイルを記録したドキュメンタリーでしたが,映画とのかかわりは古く,「フック」(1991年)等では,スケートボードのアドバイザーとして参加しています。

スケボーのイメージ,ファッション,ライフスタイルは,サーファーのそれと重なる部分があり,自由,開放的,カウンター・カルチャー等々のイメージが広がります。「ライディング・ジャイアンツ」では,映画やTV番組,音楽等に登場するサーファーのイメージと,地味な現実を対比していますが,全てを否定しているわけではなく,何か人を惹きつけるものを持っていることは認めています。サリー・フィールドの演じる「ギジェットは15歳」(1965年)では,健康的な水着姿の女性サーファーが,アメリカのお茶の間に登場しました。

このドキュメンタリーでは言及されていませんが,ビッグウェイブ・サーフィンが登場するフィクションでは,「ハートブルー」(1991年)を思い出します。極度のストレス状態に自分を追いやり,アドレナリンに憑かれた人々が,スリルのために何でもするといったアクション犯罪ものですが,これは極端に走ると命がない(=続けられない)といったところでしょうか。これは,サーフィンに限ったことではありませんね。

「ライディング・ジャイアンツ」の製作総指揮も担当のハミルトン,監督ペラルタ,そしてボードの開発で成功したノールは,商業的にも有望であり,サーフィンの魅力をアピールしていますが,全く違ったタイプのジェフ・クラークを大きく採り上げているのは興味深いところです。

クラークは,マーヴェリックス(北カリフォルニア)と呼ばれる怒涛のような大波に,15年間,一人で乗り続けた人です。そんな凄い波があることを,誰からも信じてもらえなくても,誰から認められなくても,好きなことを貫く粘り強さは,内的な動機を象徴していると思います。制作者のクラークへの深い敬意が感じられました。まさに,フランシス・ベーコンの言葉(継続は力なり)そのものです。

レイアード・ハミルトンの身の上話も,大変興味深いもので,父親のいなかった少年が,義理の父とサーフィンを同時に見つけたのは,不思議なものです。映画「ザ・エージェント」(1996年)を思い出しましたが,こちらの方は,ハッピーエンドです。ドキュメンタリーは映画(フィクション)より奇なり。Stranger than a movie… indeed.

(サーフィン その3)

比較対照 第7夜 ワルキューレとジムノペディ

映画とクラシック音楽と言えば,キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」(1968年)の『ツァラトゥストラはかく語りき』(R. シュトラウス)や,フランシス・コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」(1972年)の『ワルキューレの騎行』(ワーグナー,「ニーベルングの指輪」より)が,まずは思い浮かびます。

「地獄の黙示録」の中では,士気を高めるため大音量のワルキューレが流れる中,海からヘリコプターの一団が襲来しました。ベトナムでサーフィンをするため,波の具合で戦闘の指揮を執るキルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)。「ネパームの匂いがたまらんぜ」と言う中佐の突撃テーマソングのように用いられています。

本来,北欧神話に基づくワルキューレは,瀕死の英雄の前に現れる戦の女神たちで,天馬にまたがり勇壮に登場するとされています。そのイメージと,波頭に現れるヘリコプター軍団とが重なり,ベトナムの朝の静けさから一転し,大音量で流れる『ワルキューレの騎行』は鮮烈でした。キルゴア中佐の日和見主義は,カーツ大佐(マーロン・ブランド)の狂気や,ウィラード大佐(マーティン・シーン)の内面的な闇とは対照的な明るさがありますが,やはり戦争の異常さを象徴していると思います。

黙示録のこのシーンは,最近では,「ジャーヘッド」の中でも,戦闘意欲を高めるために用いられ,映画の一部を曲解した逆説的なシーンなのですが,この映画上映会の最中に,兵士たちの湾岸戦争行きが決まります。また,勝つ見込みのない戦に,最後まで寄り添うワルキューレのイメージは,「シン・シティ」にも登場しています。

「ライディング・ジャイアンツ」(2004年)は,サーフィンをテーマにしたドキュメンタリー映画ですが,透きとおる空と重なる大きな波を淡々とサーフするシーンでは,全ての音を止め,サティのジムノペディ(第1番)だけが流れていました。波の音も聞こえない。呼吸と一つになるジムノペディ。波に乗る人の集中力とは,こんな感じなのだろうかと想像します。

(サーフィン その2)

ドキュメンタリー考察 第2夜: サーフィン

今夜は,夏らしいトピックから選んでみることにしましょう。サーフィンをテーマにした映画は,いかがでしょうか。

「ライディング・ジャイアンツ」(2004年)は,大波(ビッグウェイブ)に挑戦する果敢なサーファーのインタビューを交え,サーフィンの歴史を紐解くドキュメンタリーですが,ファッションやイメージとしての表面的なサーフィンとは一線を画した世界を描いていると思います。もちろん,ファッションやイメージも,サーフィンに付随する浪漫やカッコよさの一部なのですが,実際にやってみると,かなりのスキルと判断力を要することに気付きます。

それでは一体どのような人が,不可能と呼ばれてきた波にチャレンジするのでしょうか。映画「ライトスタッフ」(1983年)の中で,旧ソビエトと熾烈な宇宙開発を繰り広げるアメリカで,初の有人ロケットの乗組員の候補として挙げられていたのが,ビッグウェイブ・ライダーでした。ちょっと冗談っぽく描かれているのですが,苦笑しつつも,マジでその素質を買われたのだと感じます。結局は,訓練や経験を応用できるテスト・パイロットから初の宇宙飛行士が生まれますが,不屈のチャレンジ精神,集中力,冷静さ,肉体的なコントロールといった共通点が挙げられると思います。

なぜ波に乗るのでしょうか。これは,登山家に,「なぜ登るのか」と,尋ねるのと同じようなものでしょうね。当時,処女峰であったエベレストにチャレンジしたマロリーの名言,「そこに山があるから」ならぬ「そこに波があるから」。「ライディング・ジャイアンツ」に登場するレイアード・ハミルトンの場合は,「もし乗らなければ後悔するだろう」でした。ビッグウェイブ・ライダーたちの動機は,たいていの場合,内的なものです。この辺を,監督(ステイシー・ペラルタ)自身が,スケボー出身であることからも,ビッグウェイブに挑むサーファーたちを,敬意をもって,内側から捉えることに成功していると思います。

元祖ビッグウェイバー,グレッグ・ノールの天性の陽気さ,長年,誰からも知られることなくマーヴェリックスの冷たく荒い波を乗り続けたジェフ・クラークの気力,そして,ジョーズ(ピアピ)を飼い馴らしたレイアード・ハミルトンの創意工夫。技術的には,ボードの革新,そして,牽引スタイル(トウイン)のサーフィンの開発が,考えることのできなかったような波に乗ることを可能にしました。

トウインのパイオニアとして,まず思い付くのは,ケン・ブラッドショーです。たまたま訪れていた1998年1月のノースショア(ハワイ)に,世紀の波と呼ばれるような大波が押し寄せ,連日,にわかサーフィン大会が開かれていました。鉄分を多く含んだ赤い土のパイナップル畑を過ぎ,99号線が83号線に合流する頃には,まぶたの裏に焼き付いた海が幻影のように浮かび,やがて見えてくる本物への期待がクレッシェンド。思わずハンドルを握る手が熱くなります。

ワイメア湾からバンザイ・パイプライン,そしてサンセットビーチにかけて,いつの間にか,沢山の人が集まっています。冬とはいえども温暖で,甘いプルメリアの薫りがくすぐったく,松本ドラッグストアでカキ氷を流し込みつつ,海岸に向かったものです。ちょうど,ハワイ島の火山がくすぶっていて,日によっては火山灰でどんより曇った空に,力強い波の音がこだましていました。

そして,1月28日。ケン・ブラッドショーは,史上最大の波(85フィート, 26m,約8階建ての建物の高さ)に乗ることに成功し,その時の様子を,ドキュメンタリー番組「Condition Black」(PBS, Nature)や,IMAXで観ることができます。波が高くなると,危険を説く救命隊のヘリが波の上をパトロールしますが,この日は救命隊が出動することができないほど海が荒れていて,文字通りのコンディション・ブラック。IMAXカメラを搭載したヘリコプターの操縦士は,熟練したベトナム帰還兵とのことで,冷静かつ慎重に波の谷間を縫いながら撮影のチャンスを窺い,歴史的瞬間をカメラに納めています。もちろん,命がけです。

ブラッドショーは,見た目は普通のおじさんで,街で擦れ違っても,世紀の波に乗った人とは気付かないでしょう。当時の年齢,45歳。ビッグウェイバーは,経験や判断力を要するので,年齢層高めです。ヒューストン生まれのブラッドショーは,サーフサイドでサーフィンを始めたというのですから,もっと驚きです。サーフサイドからフリーポートにかけて,よく釣りに行きましたが,どう考えても,サーフィンのメッカとは言い難く,ヒューストン出身のおっさんが,頑張ってくれているのは,何だか嬉しくなります。可能性にチャレンジする姿が,サーフィンの浪漫なのかもしれません。

(サーフィン その1)

Where do I go now?

ブログ「映画千夜一夜」を始めて,約1年半になります。

今年に入ってからブログ機能の大きなアップグレードがある度に,表示が乱れている,アクセスできない等と,申し訳なさそうに親友から連絡が入り,真剣に代替案を考慮しています。8月上旬に,MSNスペースがWindows Liveスペースになった際には,親友BOOさんから,遂に読めなくなったと知らせを受けました。マックユーザーのBOOさん,TAKAMIさんから,表示が乱れ(トイレットペーパー事件)の報告が,これまで度々ありましたが,読めないなんて。肝心の人に読んでもらえないのなら,引っ越ししてもいい。

このところの暑さと,仕事の忙しさと,どうしようかと立ち往生しているうちに,もう月半ばです。先日,BOOさんと話して,折衷案でいくことにしました。(BOOさん,Thanks!) 

千夜ないし千話続けてみようと始めたブログ「映画千夜一夜」。とりあえず続けることにします。

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参照(資料編): 
前回の映画に関するアウトライン(2006年4月2日付)以降に登場した映画を,カテゴリ毎にまとめてみました。こんな感じで映画を採り上げています。

最近は,三兎を追う形で,新しいところでは,「この1年の映画を振り返って」,帰国したので邦画を観ようという試みから,「男はつらいよ」シリーズ等の映画メモ,そして,個人的に興味のある「アート系」の映画を中心に書いています。

『映画百選』
 7/9 この1年の映画を振り返って 第1夜
7/10 この1年の映画を振り返って 第2夜
     1 ブロークバック・マウンテン
     2 クラッシュ
     3 ホテル・ルワンダ
7/14 この1年の映画を振り返って 第3夜 テキサス・コネクション
     「ブロークバック・マウンテン」,「ニュー・ワールド」,「シン・シティ」
 8/1 この1年の映画を振り返って 第3夜 敢えて難しい題材にチャレンジ1
 8/2 この1年の映画を振り返って 第4夜 敢えて難しい題材にチャレンジ2
     「クラッシュ」と「シリアナ」

『映画メモ』
 6/7 ゴダールの卵 「ヒポクラテスたち」(1980年)

(映画「男はつらいよ」シリーズより)
 7/5 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第1夜
      忘れられない人: 百合(リリー)と牡丹(ぼたん)
 7/8 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第2夜
      Love at First Sight: 第7作「奮闘篇」(1971年)
7/12 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第3夜
      Life in the Fast Lane: 速い公開のペース
7/20 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第4夜
      Love’s Labours Lost, …or Did They?: 寅さんの恋愛パターン1
7/21 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第5夜
      All You Need Is Love…: 寅さんの恋愛パターン2
7/24 寅・とら・トライ・アゲインPart1 第6夜
      第1作「男はつらいよ」メモ(1969年・昭和44年8月)
 
『芸術・アーティストの人生』
 5/3 ダイアローグ 第4夜 「歓びを歌にのせて」(2004年,スウェーデン)

 6/6 アート系 第2夜 「気狂いピエロ」(1965年)
6/11 アート系 第3夜 「カラヴァッジオ」(1986年)
6/24 アート系 第4夜 ヴァージニア・ウルフの世界
     1 「めぐりあう時間たち」(2002年)
     2 「ダロウェイ夫人」(1997年)
     3 「オルランド」(1992年)
 7/8 アート系 第5夜 「ホワイト・オランダー」(2002年)

『ドキュメンタリー考察』
 5/4 ダイアローグ 第5夜 ロック・ドキュメンタリー
    1 「ジギー・スターダスト」(1973年)
    2 「キッズ・アー・オーライト」(1979年)
    3 「レッド・ツェッペリン/熱狂のライブ」(1976年)
    4 「ザ・ローリング・ストーンズ」(1982年)

『映画フォーラム』
 5/5 ダイアローグ 第6夜 「Casting Call: ハリス・ツィードの似合う男を探せ!」
  (映画「ダ・ヴィンチ・コード」の主人公ラングドンの配役をめぐるディスカッション)

『愛のかたち』※
5/20 ダイアローグ 第11夜 「愛の神,エロス」(2004年)
5/21 ダイアローグ 第12夜 「愛のめぐりあい」(1995年)
5/27 ダイアローグ 第13夜 「花様年華」,「ソラリス」,「セックスと嘘とビデオテープ」
5/28 ダイアローグ 第14夜 「パリ,テキサス」(1984年)

※5月に連載した「愛のかたち」は,カンヌ国際映画祭に寄せて,ミケランジェロ・アントニオーニ監督,ヴィム・ヴェンダーズ監督,ウォン・カーウァイ監督,スティーヴン・ソダーバーグ監督の作品から選んでみました。

『写真展』
6/17 第22回写真展 キルト変奏曲 「高慢と偏見」(TV映画,1995年)

『SF系』
 7/2 SF系 第2夜 タイムトラベル

この1年の映画を振り返って 第5夜

敢えて難しい題材にチャレンジ2:「点と線」

今夜は,人種偏見を扱った「クラッシュ」と,政治的なトピックを追う「シリアナ」に注目してみることにしましょう。

まずは,共通点。どちらの作品も,複眼的なアプローチを用い,複数の登場人物の運命が絡まりつつ進行するというという特徴があります。一見無関係に見えた点と点を繋ぎながら,時にはもつれ,時には何らかの意味を与えつつ,結集していくというスタイル。違いは,「クラッシュ」が,場所的に一ヶ所(ロサンゼルス)を舞台にしているのに対して,「シリアナ」は,世界規模でロケーションが展開します。また,「クラッシュ」の方は,時間的な巻き戻しがあります。

どちらも,主人公的な人物が登場しますが,従来の主人公とは違った役割を担い,状況に応じて,ストーリーの前面に出たり,後ろにさがったりしながら,一つの出来事に,いろいろな角度から光を当てていくというアプローチが使われています。

「シリアナ」は,中東に関する政治的・経済的(石油)な題材を扱っていますが,政治的な映画は,立場を明確にすると,プロパガンダになりかねないという危険性があります。この映画および「クラッシュ」の解決策は,なるべく多様な視点を提供し,観る人々それぞれに判断してもらうということ。客観性が信憑性に繋がっていくわけですが,感情移入しにくいのも事実です。個人のレベルで,具体的に伝えることができないと,抽象的なわかりにくい話になってしまいます。

「シリアナ」を,個人のレベルから見てみますと,まずは現地(中東)に長年潜入していたCIA工作員ボブ,政治と深く関与する石油会社の合併を担当する弁護士ベネット,国際的な石油商社のアナリスト,ブライアンの視点から語られていますが,リストラされたという共通点からは, CIA工作員ボブ,油田で働いていた出稼ぎ労働者ワシーム,そして,その油田の採掘権を握る王国のナシール王子という一連の関係が浮かび上がります。そして,現状を維持するために,現状を打破するために,多大な犠牲を払います。

「クラッシュ」でも,変わらない・変われない部分も残されていますが,コントラストをなすいくつかの意識の転換が,見事に描かれています。ぶつかりあって(「クラッシュ」・衝突して)生み出されたのは,悲劇的な出来事であったり,奇跡的なことであったり,まともな人が不運な目に遭遇し,意外なヒーローが生まれる LAの1日。何と皮肉な運命,何とラッキー,何とランダムなことなのでしょう。

誰もが偏見から自由ではないのだと,2本の映画を観つつ改めて実感しました。

(続く)

この1年の映画を振り返って 第4夜

敢えて難しい題材にチャレンジ

この一年間位の間に日本で公開された映画(洋画)の中から印象に残った映画を選んでみると,敢えて難しい題材にチャレンジした作品が健闘しています。答えは観る人それぞれの判断に委ねられている問題提起型の映画でもあります。

これらの映画の共通点は,テーマ(題材)について考えるキッカケであるということ,もちろん考えないというのも選択ですが,映画を観終わった後も,暫くの間,反芻して,何とか理解しようと試みたくなること。まずは,社会的な視点から,いくつか拾ってみましょう。

 1 ブロークバック・マウンテン(性的偏見・同性愛)
 2 クラッシュ(アメリカ・人種偏見)
 3 ホテル・ルワンダ(人種偏見・アフリカ・虐殺)
14 ナイロビの蜂(アフリカ・貧困・製薬会社の倫理)
15 スタンドアップ(性的偏見・セクハラ)

そして,「シリアナ」(中東問題・石油会社の倫理・リストラ)

社会的な視点に限らず,個人的な視点から選んでみますと,

 5 クローサー
 7 ヒストリー・オブ・バイオレンス
 8 ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
21 愛についてのキンゼイ・レポート

「クローサー」は,前後の見境なくぶちまけることと,正直であることを履き違えた4人の男女の誠実さ,正直であることを問う作品です。不適切な言動で人を傷付け,自分自身を傷付けている「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」のエドマンド(次男)を思い出しました。正直であるべき時に嘘をつき,自分かわいさから,兄弟の安全を魔女に売り続けたエドマンド。正直に話すことと,秘密をバラすこと,人間の信頼という一線を考えさせられました。

「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」は,批判的な父と息子(ジョニー・キャッシュ)の葛藤が根底に流れていますが,面白かったのは,離婚したジューン・カーターに向けられた批判的な社会の目(偏見)。釣具を買いに行った田舎の店でのファンの冷たい一言,そして,その彼女の姿を観客に見つけた時に凍りつく想いをしたジューンの惨めさ。芸能人家庭に育ち,優等生的な彼女ですが,人から受け容れられない傷みを知ることで,道から外れそうになるジョニーを理解することができたのかと,説得力のあるシーンでした。

「愛についてのキンゼイ・レポート」も,「ウォーク・ザ・ライン……」のように,批判的な父と息子(キンゼイ博士)の葛藤が根底に流れています。ことごとく父親と対立する息子が,科学者として社会に貢献する道を見つけました。動物の行動を専門とする学者的視点から,第二次世界大戦前後の保守的な考えの残る時代に,性に関する統計的な調査を行います。ヒッピーやフリーラブ以前のことですから,もちろん,物議をかもしだしますが,人に言えない悩みを,クローゼットからかミングアウトさせたといった点で,多くの人々に希望を与えることができたのだと思います。

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」では,「ウォーク・ザ・ライン……」や,「……キンゼイ・レポート」とは違った父と息子の関係が描かれています。この父子関係は,一筋縄では説明することができないもので,過去のある父親と家族の関係を描いた映画です。母親の観点からは,3作共に共通点があり,人を受け容れること,愛すること,そして,家族として,どのように過去と対峙することができるかということを問う作品だと思いました。

(続く)